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2020.02.28

インドネシア、絵本、そして、これからのガドガド

「インドネシア、絵本、そして、これからのガドガド・・・」
(ガドガド:日本の絵本翻訳グループ)

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先にご報告したとおり昨夏約10年ぶりにジャカルタをゆっくり訪問し、現地の絵本事情を見る機会を得ました。現地で見て感じたこと、そして私たちガドガドの活動のこれからについて考えさせられた様々なことの一端を、以下ご報告します。

●政府の取組み
インドネシア政府は近年、読書推進に積極的に取り組んでおり、以前は古くて誰も寄り付かなかった(?)国立図書館(Perpusnas)も、最近、地上27階建て「世界一高層の図書館」と謳われるほど立派にリノベーションされました。館内のあちこちに読書推進スローガンが貼られ、政府要人・著名人のビデオメッセージが流され、国全体の熱心な取り組みを感じました。実際、高校生や若者の来訪者も多く見られ、市民の読書への関心の高まりも感じられました。

 絵本フロアも広く、子どもたちが寝転んだり椅子に座ったりして、自由に読書できるような雰囲気のデザイン。ただ、科学モノ、歴史モノ、物語、民話、世界の童話、様々な分野の本はあるものの偏りがあるし、蔵書数自体もそれほど多いわけではない。開架以外にも閉架所蔵があるのか?蔵書を選ぶ基準は何か?等々、素朴な疑問が残りました(今後調べることが私の宿題・・)。

●本屋(グラメディア)
10年前と比べると質の良い絵本がたくさん並んでいてビックリ!科学モノが人気なのか?シリーズで出ていたり図鑑のようなものも多かったです。物語モノでは圧倒的に民話シリーズが多く、人気の高さが伺えました。

 ただ、世界で一般的に読まれている童話(例えばグリムやアンデルセン、欧米の良く知られたお話など)はあまり見かけませんでした。また、時代を超えて長く読み継がれている本(例えば日本で言うと「ぐりとぐら」のような)があるかというと、そういう感じでもないような。新刊コーナーには魅力的な本が多く並んでいましたが、果たして1年後、5年後、10年後に同じ本があるかというと甚だ疑問。実情は分かりませんが、ほとんどの本が増版されず初版のみで終わってしまうのではないでしょうか。増版に到る要件は、当然のことながら「たくさんの人がその本を購入すること」。良い本が出版されても購入者・読者がいない→増版されない→良い本が廃れる、の悪循環。増版には読書習慣の定着が不可欠なのです。公共図書館の設置や、本を購入しやすい価格設定にすることなどで、まず子どもたちが本に触れる機会を増やすことが読書環境向上の第一歩と改めて考えさせられました。

●そして私たちガドガドの新たな課題・・・
J2ジャカルタの読書活動にも参加し、ガドガド作成の翻訳絵本がどのようにインドネシアの子どもたちに読まれているのかも実際見てきました。私自身、「この本は日本でも長く愛されてきた本。インドネシアの子どもたちにも絶対喜んでもらえるに違いない」と心弾ませ多くの本を手掛けてきました。しかし実際の子どもたちの反応は・・・・自分が想像していたものとはかなり違ったのです。
子どもたちがまず手に取るのは、現地出版の本。なかなか翻訳絵本は手に取って読んでもらえてないのです。「どうして?私たちの翻訳絵本は、絵も内容もとっても良いものなのに!」。・・・でも考えてみれば当たり前です。絵も内容も、インドネシアの子たちにとっては普段馴染みが無いものなのですから。(そして、昔とは違い現地出版の良い絵本も増えています。そんな中でシールを貼り付けた手作り翻訳絵本・・・「なんだこれ?」子どもにとってもなんだかちょっと不思議ですよね・・・。)普段見慣れているものの方が手に取りやすく、興味を持つに決まっています。逆のことを想像したらどうでしょう?日本の子どもたちが、たくさんある本の中からあえてガルーダやジャワの王様の本を選ぶでしょうか?桃太郎や一寸法師、鬼などはインドネシアの子どもたちにとっては、かなり異質で難解な存在であるはずなのです(もちろん、ガドガドは日本の昔話ばかりを送っているわけではありませんが・・)。内容だけでなく絵のタッチも、比較的色鮮やかではっきりしたタッチのものが好んで読まれている印象でした。私たちが良いと思うものを、インドネシアの人々が同じように良いと思うわけではないのです。そんなことは分かり切っていても、現地の状況を見ずに活動を続けていると、現地の好みや需要を忘れ独善的になってきてしまうこともあり、その点気を付けなくてはいけないと思いました。

 インドネシアの絵本出版事情は飛躍的に改善しているとは言え、日本に比べるとまだまだ発展の余地があることは確かです。日本の優れた絵本を紹介していく意義は依然あり、ガドガドの活動も変わらず意味がある大切なものです。しかしながら、「インドネシアの子どもたちに喜んでもらえる本を送りたい」という、活動を始めるきっかけとなった初心を忘れずに、常に変わりゆく現地の事情を念頭に置いて絶えず工夫し、試行錯誤しながら活動を続けていくことが大切なのではないかと、深く考えさせられた旅となりました。(以上、宮崎の私感でした)。

 

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