ニュースレター

2015.12.26

カンポンに風通しの良い建物をそして移動図書館を!

 高級住宅地メンテンから歩いて10分たらずのジャカルタのど真ん中に、ホテルや病院といった大型施設に囲まれるようにして、カンポンチキニはあります。私たち、千葉大学建築学科の学生は、そんなカンポンチキニに住み込みながら、東京大学岡部明子教授の指導のもと、研究や建物を造る活動を行っています。

 ジャカルタにはカンポンと呼ばれる、都市計画から外れたインフォーマルな居住区が数多く存在します。カンポンは、インフォーマル故のその居住環境の悪さから、近年では、カンポン対策として、クリアランスによる住民の立ち退きが余儀なくされています。一方、地球規模で考えてみると、カンポン内における生活は環境への負荷が低いこと、また都市中心部のカンポンは、都心で働きたいインフォーマルセクターの受け皿になっていることなど、都市の中で重要な役割を担っています。私たちは、カンポンに住みながら、住民の方々と一緒になって建物を造ることで、いかにカンポンを残しながら住環境を良くしていくかということについて研究を行っています。

 After Fire Project(ハウジングモデル・Rumah Pintarの建設)

2013年、元千葉大学(現東京大学)岡部明子研究室とインドネシア大学の共同で、子どもの勉強場所が無いという住民からの要望に応え、チキニに通風採光に優れた図書館を建設するプロジェクトが始まりました。最初はデポックのアパートに住んでおり、チキニに毎日通っていましたが、もっと住民とのコミュニケーションをとれるようにと、住み込みを始めました。住み込む前は、気難しく全く意見を聞いてくれなかった大工さんも、住み始めて、次第に私たちの意見も尊重してくれるようになり、プロジェクトが進み始めました。

施工現場は、借りているコスから、徒歩10秒。毎日施工に参加しました。設計はしたものの、建築学生でありながら、のこぎりやトンカチの使い方すら知らない私たちは、コンクリートを手で練るところから、建物のつくり方を一から大工さんから学びました。建材が捨てられてしまったり、いろいろとハプニングはありましたが、無事完成を迎えることが出来ました。建物のオープニングセレモニーでは、日本からお茶の先生をお招きし、造った建物(Rumah Pintar)の中で、お茶会を開きました。J2net代表の山崎くるみさんが、お茶会のお手伝いとして来てくださり、そこで知り合いました。

Rumah Pintarでの移動図書館

せっかく図書館として建てたRumah Pintarですが、土地をめぐるコミュニティ内のグループ同士の争いに巻き込まれ、しばらく使われない状態が続きました。鍵が壊され、すぐにゴミや落書きで荒らされてしまいました。その状況をたまたま通り過ぎざまに見たご主人から聞いた、JNETの山崎さんから、「Rumah Pintarで移動図書館の活動をやってみないか」という提案を頂きました。コミュニティとミーティングを何度も行い、201410月から、毎週、Rumah Pintarで移動図書館を行うこととなりました。

移動図書館を始めたばかりのころは、活動の前に私たちが一週間の汚れを掃除しなくてはなりませんでした。しかし、活動を続けているうちに、当初は読書ということに興味を示さなかった大人たちが次第に子どもの様子を見にくるようになりました。また荒れ果てていたRumah Pintarは住民によって掃除されるようになり、鍵も新しくなり、壁もペンキで塗り直され、住民の手だけで管理されるようになりました。

活動の広がり

活動の継続により、少しずつですが、住民の生活の中に私たちの活動の成果も芽生え始めています。しかし、持続可能な社会に向けた提案としては、部分的な提案を住民に対して行うだけでは不十分。社会に対してどうアプローチをしていくかが重要となります。

期せずして、2015年の10月に国連ハビタットのアジア会合がジャカルタであり、それにご出席なさった国土交通省、JICA、福岡市都市計画局等の方々をチキニにお呼びすることが出来ました。当日は、私たちのプロジェクトで建設したRumah Pintarや共同トイレなどを見て頂きました。また、J2NETやインドネシア大学にお力添えを頂き、紙芝居の読み聞かせを披露しました。見学してくださった方々からは、ご好評頂き、今後のプロジェクトの発展のためにも重要な機会となりました。

最後に、カンポンでの生活でもっとも実感するのは、暮らすということが本来持つ能動性です。チキニに暮らす人々は自分の家から下水がどのように流れているかを知っているし、道ががたつき始めると、余ったコンクリートで舗装し直します。建物がただあれば良いというわけではなく、常にそこには人々の活動が存在します。自分たちの暮らす場所は自分たちで良くするという、日本の生活の中ではなかなか気が付くことが出来なかったことを、気が付かせてくれたように思います。(澤井源太)

Facebookページ:After Fire Projectで出てきます。

https://www.facebook.com/Megacity.Design.Labratory/?ref=aymt_homepage_panel

お問い合わせ:hiranoakira87@gmail.com (担当:平野陽)

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